今回は、脱退残存表についてみていきましょう。
◆複数の脱退原因がある場合
年金制度を脱退する理由を脱退事由といい、脱退事由が2つの場合のことを二重脱退といいます。
:x歳の残存数
:x歳の生存脱退数 ※wの添字はwithdrawal(撤退、撤兵、退学、退会)を表します。
:x歳の死亡脱退数 ※dの添字はdeathを表します。
:残存率といいます。
・・・①
が成り立ちますが、が残存数とそれぞれの脱退数について成り立ちます。
そのため、①は
・・・②
と書きかえが可能です。
:生存脱退数
:死亡脱退数
とすると、②は、
となります。
では、問題を見ていきましょう。
問題1 絶対死亡率の実務近似 ★★☆☆☆
生存脱退と死亡脱退との多重脱退残存表について考えていく。
:残存数 ,
:残存率,
:生存脱退数,
:死亡脱退数
:生存脱退数,
:死亡脱退率,
:死亡生存表における生存数
:死亡率
このとき、定義よりそれぞれ
,
が求まります。いま生存脱退が1年を通じて一様に分布するものと仮定すれば、(t,t+dt)の生存脱退者は\(d_x^{(w)}×dt\)となる。これから生ずる(t,1)の期間で死亡するであろう人数は\(d_x^{(w)}dt×\frac{l_{x+t}-l_{x+1}}{l_{x+t}}\)となる。
x歳の生存脱退者のうち(x+1)歳までに死亡する人数をとすると、
となります。ここで、死亡が1年を通じて一様に分布すると仮定すると、が得られます。ここで死亡者は加入中の死亡と生存脱退後の死亡の合計であるので、
であるから、多重脱退残存表より、死亡率を求める方法は、
とわかります。
【アクチュアリー 平成5年 年金数理 改】
◆解答解説
・・・❶
ここで死亡が1年を通じて一様に分布すると仮定すれば、\(1-\frac{x+1}{l_{x+t}}=(1-t)q_x\)とおけるので、❶は
ここで死亡率は、死亡脱退者数と、生存脱退し、その後死亡した人数を残存数で除したものなので、
これをに関して整理すると、
と求まります。
1⃣ここで求めた\(q_x\)は分母・分子を\(l_{x}^{(T)}\)で除すると\(q_{x}=\frac{q_{x}^{(d)}}{1-\frac{q_x^{(w)}}{2}}\)とわかる。ここでの\(q_{x}\)は後述する絶対死亡率である\(q_{x}^{*(d)}=\frac{q_{x}^{(d)}}{1-\frac{q_{x}^{(w)}}{2}}\)を求めている。
ただし、注意しなくてはいけないのは、本来は絶対死亡率は\(q_x^{*(d)}=\frac{q_x^{(d)}}{1-\frac{q_{x}^{*(w)}}{2}}\)によって求まるもので、\(q_{x}^{*(d)}=\frac{q_{x}^{(d)}}{1-\frac{q_{x}^{(w)}}{2}}\)の値は概算値であり、正確ではない部分があります。ただし、年金数理の実務上は概算値でも構わないので\(q_{x}^{*(d)}=\frac{q_{x}^{(d)}}{1-\frac{q_{x}^{(w)}}{2}}\)を用いて求めるのが伝統的なものとなっている。
また、アクチュアリーの年金数理の試験では、日本アクチュアリー協会の年金数理教科書にて絶対死亡率に関する記載がないため、不文律的に\(q_{x}^{*(d)}\)を『*(アスタリスク)』を用いて表記せず、\(q_{x}\)や\(q_{x}^{(T)}\)と表記されています。

◆脱退残存表
諸計算を行う上で、被保険者のういい、脱退者の発生状況をまとめた脱退残存表を作成します。年金制度においては、死亡脱退と生存脱退の二重脱退残存表を用います。
問題1 脱退残存表 ★☆☆☆☆
以下の脱退残存表において、年齢26歳における生存脱退後の死亡も考慮した死亡率(空欄のXの数値)に最も近いものを選択肢のなかから1つ選びなさい。なお、脱退および死亡は1年を通して一様に分布しているものとする。

(A)0.00803 (B)0.00806 (C)0.00809
(D)0.00813 (E)0.00816 (F)0.00819
(G)0.00823 (H)0.00826 (I)0.00829
◆解答解説
とわかります。次に
から
⇔
となります。
よって(I)
問題2 脱退残存表の類題 ★☆☆☆☆
以下の脱退残存表から計算される年齢26歳における絶対死亡率()に最も近いものは次のうちのいずれか。なお、脱退及び死亡はそれぞれ独立で、一年を通じて一様に分布しているものとする。

(A)0.00250 (B)0.00258 (C)0.00265 (D)0.00272 (E)0.00280
◆解答解説
脱退残存表から
これらより、
となるため、答えは(D)となります。
1⃣脱退残存表から絶対死亡率を求める問題は、過去の問題をみても、よく出るテーマです。慣れて素早く求めることができるようになりましょう。ちなみに、は経過契約といい、脱退したその半分だけが死亡危険にさらされるということをあらわしています。
問題3 生存脱退は1年を通じない場合 ★★★☆☆
生存脱退と死亡脱退からなる以下の二重脱退残存表において、年齢 56 歳における死亡脱退数\(d_{56}^{(d)}(空欄 X に入る数値)に最も近いものは次のいずれか。なお、生存脱退は期初に年間の生存脱退数の半数、期央に残り半数が発生するものとし、死亡脱退は一年を通じて一様に発生するものとする。また、表中の𝛼および𝛽にはそれぞれ同じ数値が入るものとする。

(A) 531 (B) 532 (C) 533 (D) 534
(E) 535 (F) 536 (G) 537 (H) 538
【年金数理人 2024年 問題1】
◆解答解説
生存脱退のほうが、1年を通して一様に起こらない問題。
X年度~X+1年の期初を[0,1]という区間として考える。
期初の\(d_x^{a→d}=\frac{1}{2}a(1-\frac{l_{x+1}}{l_x})\)・・・❶
ここで、死亡による脱退は1年を通じて一様に発生するので、
\((1-\frac{l_{x+1}}{l_{x}})=q_x\)・・・❷
とわかる。これより、❷
\(d_x^{a→d}=\frac{1}{2}α・q_x\)
となります。また、区間[\(\frac{1}{2}\),1]での生存脱退後、死亡脱退する人数は
\(d_{x+\frac{1}{2}}^{a→d}=\frac{1}{2}a(1-\frac{l_{x+1}}{l_{x+\frac{1}{2}}})\)・・・❸
ここで、❶と同様に\(1-\frac{l_{x+1}}{l_{x+\frac{1}{2}}}=\frac{1}{2}q_x\)
より、❸は、
\(d_{x+\frac{1}{2}}^{a→d}=\frac{1}{2}a・\frac{1}{2}q_x\)・・・❹
これより、死亡率は死亡脱退と上記の生存脱退後の死亡数の和なので
\(q_{x}=\frac{0.05α+\frac{1}{2}α+\frac{1}{4}}{l_x}\)
⇔\(q_x=\frac{0.05α}{l_x-\frac{3}{4}α}\)
となります。ここでαは100,000-α-0.05α=89,500より,α=10,000となります。これを上記の式に代入すると
\(q_x=\frac{500}{92,500}=0.0054054054=β\)となります。
同様に翌年度についても上記と同じ議論で考えると
\(q_{x+1}=\frac{X}{89,500-\frac{3}{4}×10,000}\)となります。これよりXは
\(X=1.2×82,000×0.0054054054=531.189189≒532\)
となるので、(B)が正しい。
問題4 脱退数が一定になる二重脱退 ★★★☆☆
生存脱退と死亡脱退を脱退事由とする二重脱退残存表を考える。
二重脱退残存表における記号を次のように定義する。
:死亡脱退数 ,
:生存脱退率 ,
:死亡脱退率
この時、は常に0.05、
は0.005、x≧60に対して、
が一定になるとき、この二重脱退残存表の最終年齢(残存者数が初めてゼロとなる年齢)に最も近いものを選択肢の中から1つ選びなさい。なお必要であれば、次の諸数値を使用しなさい。
<諸数値>
,
,
(A)86 (B)89 (C)92 (D)95
(E)98 (F)101 (G)104 (H)107
(I)110 (J)113
【2018年 アクチュアリー年金数理】
◆解答解説
より、
・・・❶
ここで生存脱退率は一定値0.05より、
・・・❷
となります。ここで、60歳時ので具体的な値が与えられているので、60歳時について考えていく。
・・・❸
次に、61歳の時も考えると、
・・・❹
となります。
ここで、60歳以上では死亡脱退数が一定という条件のため、
・・・❺
❺を❹に代入すると
・・・❻
となります。
これを一般化すると、
・・・❼
これが0より小さくなる時を考えるので、
より、最終年齢ωは
ω=60+47=107となり(H)が解答となります。
◆絶対脱退率
上記で紹介してきた二重脱退のような脱退原因が複数ある脱退モデルを多重脱退モデルといいます。
このような多重脱退において、各脱退原因をj=1,・・・,mと表します。
※脱退原因を今回は、jを用いて表してますが、kを用いる場合もあります。
このとき、ある脱退原因jのみによる場合の脱退率を\(_tq_x^{*(j)}\)と表し、これを絶対脱退率(absolute rate of decrement)といいます。
もし、脱退原因が1つ、イメージとしては一重の脱退とすると
\(_tq_x^{*(j)}=_tq_x^{(j)}\)
が成り立ちます。
絶対脱退率とは、二重脱退、三重脱退のような多重脱退モデルにおいて、それぞれの脱退原因において、多重脱退出なかった場合の脱退率を意味しています。
つまり、脱退原因が1つのみの場合を仮定したときの脱退率となるのです。
そのため、絶対脱退率を考える際は、注目している脱退原因jはほかの脱退原因の影響を受けないといった、ここの脱退原因は独立であるということを考えます。
このため、脱退原因をひとつとみなした場合の残存率を
\(_tp_x^{*(j)}=1-_tq_x^{*(j)}\)
と考えることができる。
◆年金数理における絶対脱退率
ここで年金数理では、死亡脱退、就業不能などの生存脱退の二重脱退を扱うことが多いため、これを例に絶対脱退率を考えていく。
それぞれの絶対死亡率と絶対生存脱退率を\(q_x^{*(d)}\),\(q_x^{*(w)}\)と表すこととします。
執筆中
これにより、脱退力\(μ_{x+t}^{*(j)}\)は通常の脱退残存表と同じように
\(μ_{x+t}^{*(j)}=\frac{1}{_tp_{x}^{*(j)}}・\frac{d_tq_x^{*(j)}}{dt}=-\frac{1}{_tp_{x}^{*(j)}}・\frac{d_tp_x^{*(j)}}{dt}\)
この脱退力は瞬間の脱退率であり、各脱退原因による脱退が同時に行らないという仮定から
\(μ_{x+t}^{*(j)}=μ_{x+t}^{(j)}\)
が成り立つ。これは、脱退原因jのみ考える場合の瞬間の脱退率と多重脱退において脱退原因jにおける瞬間の脱退率が同じことを仮定しているということを表していることになります。瞬間的には同じということに注意しましょう。
ですので、瞬間でないような、時間が経過した場合においては、脱退率と多重脱退にモデルにおける絶対脱退率には差が生じることになります。
一般的に多重脱退モデルおいて、基本的に\(μ_{x+t}^{*(j)}=μ_{x+t}^{(j)}\)の関係が成り立つため、各脱退力はわざわざ『*』を用いず、
\(μ_{x+t}^{(j)}\),\(μ_{x+t}^{(k)}\)や脱退原因をA,B,Cのようにアルファベットを用いる場合は、\(μ_{x+t}^{A}\),\(μ_{x+t}^{B}\),\(μ_{x+t}^{C}\)のように表すことが一般的です。
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