今回はTrowbridgeモデルにおいて、給付現価、人数現価を視覚的に理解することができる現価率-生存数平面について考えていきましょう。
の関数によって作られる空間は下記のように

生存関数と現価率によって形作られます。この空間において、の座標はnとxによって決定されます。
これを空間のまま取り扱うと視覚的に考えづらい部分があるので、これを平面と見立てたものが
Trowbridgeの平面図になります。

通常のx、y軸によるガウス平面とは異なり、この平面では、座標の移動は通常の座標とはことなる処理をします。そのため、平面における特殊な演算について考えていきましょう。
◆平面上の右左移動について
例えば平面上の\(l_x・v^{n}\)を右に移動し\(l_x・v^{n+m}\)に移動したい場合は、×\(v^{m}\)を行います。右へ1つ移動したい場合は、を乗じます。2つ移動したい場合は、
を乗じれば座標の移動が行うことができます。

また、有用性は低いのですが、左で移動したい場合は、\(v^{-m}\)を乗じることで左にm移動することもできます。つまり、\((1+i)^m\)を乗じると左へm移動することになります。
上記ではvを乗じることで左右の移動を考えましたが今度は、割引率であるdを乗じた場合について考えて
いきましょう。d=1-vの関係性より、にdを乗じると
移動後の点をもとの点から差し引いた関係になります。

これは数式的にも下記の式の処理をしているのでわかると思います。
◆平面上の点の増殖操作
また、確定年金を乗じることで平面上の点を右へ増殖することもできます。
たとえば、に
を乗じることで自身を残して、右へ4点増殖することが出来ます。

これを一般化するとに
をすることはm-1点右に点を増殖することになります。
このようにこの平面上の,
もとい
にある値を乗じることで、平面上での移動を考えることができます。
①vを乗じる:右に1つずらす
②(1+i)を乗じる:左に1つずらす
③\(v^{m}\)を乗じる:右にm移動
④確定年金を乗じる:右にm個だけ増殖する(元々の点を含む)
⑤永久年金\(\ddot{a}_{∞}=\frac{1}{d}\)を乗じる:右へ無限に増やす
⑥d=(1-v)を乗じる:自身から右へ1つずらしたものを引く。
⑦有期生命年金を乗じる:右斜め上方向へm個増殖する。
⑧終身年金を乗じる:右斜め上方向へ無限に増殖する。
⑨期初略算定期平均余命を乗じる:上にm個増やす
⑩期初略算平均余命を乗じる:上に無限に増殖する。
⑪\(\frac{D_y}{D_x}\)を乗じる:右上にy-x個だけ移動させる。
⑫\(\frac{N_y}{D_x}\)を乗じる:右上にy-x個だけ移動後、右上方向に無限に増やす。
※『アクチュアリー試験 合格へのストラテジー年金数理』では期初略算平均余命は
\(_m\ddot{e}_x⇒\ddot{e}_{x:\overline{m}|}\)と独自の表記を用いていて説明されています。
問題1 \(v^{n}-l_x\)平面の基本操作 ★☆☆☆☆
\(l_{x_e}\)に\(\ddot{e}_{x}\)を乗じた場合、制度全体の毎年度の給付額(期初払)Bと在籍中の被保険者の総数(期初,新規加入後)の和に等しいことを\(v^{n}-l_x\)平面上の移動を用いて検証しなさい
【wakuwaku-math オリジナル問題】
◆解答解説
Bは下の図のようになっており、

Lも下の図のようになります。白丸は\(l_{x_r}\)を含んでいないことを表します。

オレンジの点\(l_{x_e}\)をスタート地点とすると、これに\(\ddot{e}_x\)を乗じると上に無限に増殖するので

\(l_{x_e}×\ddot{e}_{x:\overline{n}|}=B+L\)が成り立ちます。
問題2 \(v^{n}-l_x\)平面の基本操作② ★☆☆☆☆
\(l_{x_r}\)に\(v^{x_r-x_e}・\ddot{a}_{x_r}・v・\frac{1}{d}\)を乗じた場合、これが\(S^f\)に等しいことを \(v^{n}-l_x\)平面上の移動を用いて検証しなさい。
【wakuwaku-math オリジナル問題】
◆解答解説
\(l_{x_r}\)(点A)に\(v^{x_r-x_e}\)を乗じると点Bに移動となります。これに\(\ddot{a}_{x_r}\)を乗じると、直線BC上の点を表します。最後に\(\frac{1}{d}\)を乗じると、下記の図の領域部分に対応しているため、\(S^f\)と一致します。

◆各財政方式の保険料と積立金の給付への賄い範囲
\(v^{n}-l_x\)平面において、保険料と積立金がどの給付現価を賄っているかがわかります。
・賦課方式では、保険料は\(^pC=B\)です。この保険料の永久年金\(\ddot{a}_{∞}=\frac{1}{d}\)で\(S^p+S^a+S^f\)を賄っています。賦課方式なので、積立金は0となっており、\(^PF=0\)です。つまり、\(v^{n}-l_x\)平面においては、積立金が賄っている領域はありません。

・退職時年金現価積立方式では、保険料は\(^TC=l_{x_r}・\ddot{a}_{x_r}\)と、\(l_{x_r}\)を開始点とし、右斜め上に増殖したものが保険料となっており。これの永久年金、つまり保険料\(×\frac{1}{d}\)したものが、\(S^a+S^f\)と在職中の被保険者の給付現価と将来加入が見込まれる被保険者の給付現価を賄っていることがわかります。

これに対して、退職時年金現価積立方式の積立金は、保険料で賄いきれなかった部分を賄う。つまりは、\(S^p\)から\(l_{x_r}・\ddot{a}_{x_r}\)を除いた部分を積立金で賄うことになる。これより、\(^TF=S^p-l_{x_r}・\ddot{a}_{x_r}\)という式が導けます。このように、保険料が何を賄って、積立金が何を賄っているかを視覚的にわかりやすく判断できるツールとして\(v^{n}-l_x\)平面を活用できます。
では、問題を見ていきましょう。
問題 1 退職金の差への利用 ★★☆☆☆
Trowbridge モデルにおいて加入時積立方式と退職時年金現価積立方式の制度全体の定常状態における積立金の差 \(^{In}F-^(T)F\)を予定利率𝑖および在職中の被保険者の給付現価\(S^{a}\)を用いて表すと、次のいずれか。
(A) \(S^a\) (B)\(S^a/(1+i)\) (C)\(S^{a}(1+i)\)
(D)\(S^{a}/(1-i)\) (E)\(S^{a}(1-i)\)
【年金数理人 2024】
◆解答解説
\(^{In}P=\frac{D_{x_r}\ddot{a}_{x_r}}{D_{x_e}}\)から、\(^{In}C=l_{x_e}^{(T)}\frac{D_{x_r}・\ddot{a}_{x_r}}{D_{x_e}}\)より、
\(l_{x_e}\)を右斜め上まで移動し、その後斜め方向に増殖させたものが保険料となります。この保険料×\(\frac{1}{d}\)で\(S^f\)を賄う。

加入時積立方式の積立金は、保険料で賄う部分以外を賄うので、
\(^{In}F=B/d-l_{x_e}^{(T)}\frac{D_{x_r}・\ddot{a}_{x_r}}{D_{x_e}・d}\)
となり、下記の図の台形ABCE(BCを除く)を賄う。

また退職時年金現価積立方式は
\(^TF=S^p-l_{x_r}・\ddot{a}_{x_r}\)となっており、三角形ADE(ADは除く)部分を賄っている。
これより、 \(^{In}F-^(T)F\)=四角形ABCD(BCを除く)部分となります。
これは、下図の\(S^P\)の領域を左へ1つ移動させた領域のため、\(S^p(1+i)\)だとわかります。

よって、(C)が正しい。
連続払いの年金制度に関しては、記事②で記載するつもりです。
【年金数理】現価率-生存数平面について②
